“ヨーロッパの大地を再び踏めしめていることに感謝の気持ちを忘れずに”
旅の最初の方の日記には、そう書き残されていた。
〜今から約3年前、出入国が厳しいことで有名なドイツ・フランクフルト空港にて〜
最後に出国スタンプを押す審査官の表情がみるみるうちに強張り、明らかに怒っているように見受けられた。
「ヨーロッパに来たのはいつ?君、90日以上滞在しているよね?」
そう、当時私はオーバーステイをしてしまっていた。
日数に換算して8日といえど、オーバーステイの意味するところは事実上の不法滞在。つまり、軽犯罪者。自らこの言葉を選んでいる今でも胸のあたりがザワつく…。
知らないだけでは済まされないことだが、当時の私は若気の至りでその場は見逃してもらった。
“もう二度と真っ当にヨーロッパの大地を踏めなくなるかもしれない”
帰国後、そんな恐怖がだんだん現実的に感じられるようになり、来る日もくる日も自らの過ちを悔いた。
実質向こう3年間はコロナもあって海外の行き来が出来なくなってしまった。
コロナ禍に自分を取り巻く環境は仕事もプライペートも随分と変わってしまったけれど、変わらず心の中心の一番熱い部分はマグマが煮えたぎるように“再び世界へ旅に出たい”と渇望していた。
コロナ前最後の旅先として、周遊したヨーロッパ。
毎日飽きるほど、教会や大聖堂、その他のヨーロピアンな景色の中に身を置きながら、また行きたいと懇願する場所も同じくヨーロッパであった。
きっと自らの魂を構成する要素の中に強くヨーロッパが息づいているんだと思う(この話はまたどこかで)
〜北イタリア・ミラノ・マルペンサ空港の入国審査にて〜
いよいよ自分の順番がやってきた。
列の順番が近づいてくるにつれて心臓の鼓動は早くなり、緊張で手に汗握るとはまさにこのことだという気持ちを必死で押し殺そうと大変だった。
ベテランの強面の入国審査官は、私のパスポートを丁寧に隅々までチェックし(よしっ!次の瞬間にはスタンプを押してくれ..(押してくれない)というはやる気持ちを何度も抑えながら)
ようやくスタンプを握りしめて「ガチャンっ!」とスタンプを押して、パスポートを返してくれる頃には顔がみるみる綻び、「Ciao!」の一言で入国させてくれた。
この時の感情は忘れようがない。
イタリアはミラノ・マルペンサ空港を取り巻く全てにありがとう!アモーレ、イタリア!とガッツポーズを決めた。
こうして幕を開けた、自身の人生で2度目となるヨーロッパ周遊。
前回は、北欧から徐々に南下して西欧を中心に見て回った。
では、今回は…?
東ドイツ・ベルリンから東欧を中心にバルカン半島をひと通り見て回ろうと思う。
きっと一筋縄では行かないことだらけで、四苦八苦するんだろうな。
毎日旅先で喜怒哀楽のバロメーターが壊れるほどに感情をグワァン、グワァン、翻弄されるんだろうな。
でも、それもいつしか抱腹絶倒するほどの笑いのタネになっているはずだから、きっと大丈夫。
だって、この手には最強のパスポートと困難を共に乗り越えてきた魂が今にも飛び出しそうなほどイキイキしているんだから。
これまでだって、死なない程度の困難は乗り越えてきた。
だから、大丈夫。
そう言い聞かせて、旅をスタートさせた。
旅、それは、限りある今を全力投球で生きることを思い出させてくれる魔法だ。